このふたのうらにあります!
「おトイレのみずの
レバーは
このふたのうらに
あります! 」
朝方なんかに、「あれ?ハンカチどこだっけ?」、「あれ?財布どこだっけ?昨日酔って帰って・・・」、「あれ?ここ・・・誰の家?俺こそ誰?」なんてことがある。人によってはよくある。ない人はない。
そんなときに、
「ハンカチはタンスの引き出し、上から二段目にあります。」
「財布は駅前のロータリーの植木の根元に転がってます。」
「ここは山田さんのお宅です。そしてあなたはカチェンコノォフ・チェンコ。ロシア人です。」
なんてどこかに書いててくれていたらどうだろう?
一体誰が書き残して行ったのかということを考え出すと、それは一種の恐怖の感情さえ呼び起こしてしまうので深く考えないことにする。人間、幸せに生きるには「あまり考えない」というのも一つの手だ。
そう、そんな楽天家(お買いものはいつも楽天という人を指す意味ではない)な人々をナビしてくれるようなメモがあれば非常に助かる。急いで山田さんのお宅から駅前のロータリーにダッシュが出来る。走れカチェンコノォフ・チェンコ!
それと同じ。
勝手知ったる我が家のトイレではなく、初対面のトイレでお手合わせをしなければならなくなったときに、やはり確認しなければならないのは、紙の存在とレバーの存在。
紙がなかった場合の悲劇は、パラシュートを背負わずにセスナから飛んでみたり、はたまた「バンジー!」と叫んで飛び降りてみたものの、どうもゴム紐が体に結ばれている様子がない、もしくは首に集中して巻きついてあるといったシチュエーションにも似ている。
どちらにも共通するのはフリーフォールといった点だ。
そんなトイレでのフリーフォールは免れたものの、人間としてはその後の処理がある。
犬や猫ならば後ろ脚で砂をかけて、三歩ほど歩けば忘れるものの、人間となるとさっきまで自分のお腹の中にいたものや、その他もろもろを流さなければならない。
これが分かりやすい場所にレバーがあったりすると助かるのだが、「私に右腕を犠牲にしろとおっしゃるのですか?」といった難儀な場所にレバーがあったり、ボタン式だったりすると、ちょっと流すまでに捜索が始まる。
そんな手間暇を省いてくれるためにも、背もたれに貼り紙。
正確には便器のフタの裏に貼り紙。
「座ったら見えないじゃん」とか言うのは野暮。車に乗る前に、さすがにタイヤ圧までは確認しないけども、ガソリンの量ぐらいはチェックするでしょ?むしろ目に入りやすいところにあるものだ。
それと同じ。
ただ、全て平仮名と片仮名という、急いで携帯電話でメールを打ったときのような文面の理由はこちらをご覧頂きたい。
トイレのドアに、かわいらしい動物のキャラクターたち。
「ひねり出すゾウ」
「ゆっくりしていってネコ」
決して今、洗脳教育のように流れているACのCMのキャラクターたちではない。ポポポポーン。
それぞれの個室のドアに貼られているのは、画用紙で作られたお手製の動物たち。
ここは市が開放している、お母さんと子供たちが遊べるように室内に遊具などが置かれている施設。一種のコミュニティセンターのような場所だ。
したがってメインとなる来訪者は保護者と小さな子供たちという取り合わせになり、このように子供の方に歩み寄ったトイレの装飾&貼り紙となっている。
海外での日本食料理屋が、過剰に日本っぽい装飾で店内を飾るのにも似ている。メインターゲット層に歩み寄った飾りをすることは大事だ。
目当ての男性を落としたいときに、その男性の好みとする衣服に女性が着飾るのにも似ている。
ちなみに私の好みはアマゾネスだ。
それゆえに、子供が用を足した後に「レバーの場所が分からないよー!じゃあ持って帰ろうかなぁ・・・」なんてレバーの迷い子にならないように、上記の貼り紙があるのだろう。もしくは孫を連れてきたお爺ちゃんにも向けて。
それに個室に入るというのを怖がる子供も中にはいるだろう。でも大丈夫、象さんやネコさんなど楽しい仲間がいるから大丈夫。
子供の気持ちを和らげるといった面でも動物たちの貼り紙があるのだと思う。
きっと「ありがとウサギ」とかいる。
そんな歩み寄りは、小便器側にも見られる。
「ボタンをおして
ながしてね!」
これが一般的、つまりは大人を対象としたトイレだったならば、「押せっってんだろ」と書かれていてもおかしくないところを、お姉さんが優しく諭すが如し「ながしてね!」と来たもんだ。
きっと、お姉さんの人指し指は立っていることだろう。
自動で流れるタイプも世の中には存在する。しかし何事も経験だ。
ボタンを押すことで何かに作用するということを体で体験してもらおう。
ボタンを押すことで水が流れることを知った少年は、成長して身長が伸びればエレベーターのボタンを押すことを覚え、やがては非常べルを押してみたい衝動に駆られることだろう。
もっと大人になれば、「あっ、こんなことろにボタンみーつけた!しかも二つ!」とか言い出す始末。
洗面台も同じで、
「手をあらいましょう」
どこに足を踏み入れても、その場所なりのルールというものがある。
そう、ご飯を食べた後に「ごちそうさま」と言うように、トイレを出るときにはしなくてはいけないことがある。
出来る男は手を洗うのだ。
そんなメッセージを込めたお手製の貼り紙だ。
犬ですら手を洗うぞ。
「こんにちワン」とか言うしね。
ところで、一番最初の貼り紙が貼られていた便器のフタの後ろなのだが、
まあ、レバーよりも予備のトイレットペーパーの方に子供の手は伸びると思う。
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