そこに台詞ですか? 後編
前回の続きです。
まるで映画のセットのような佇まいの和式便器ならぬ、和式家屋。
この絵の中に、既に貼り紙があります。
この季節、足元がとてつもなく冷え込む廊下沿いを歩き、
後光が差しこんでおり、眩いばかりの「男厠」と書かれた表札(?)と、
同じく、「男厠」と書かれた暖簾の前を通り過ぎる。
「厠」と刻まれている段階でこの暖簾の存在場所は限られ、台所に吊るしたりすることは不可能だな。
遊びに来た友人に、「お前んちのトイレ、台所みたいだな?」と言われてしまう。
この男性トイレ前を通り過ぎて、次に連なるのは女性トイレの入り口なのだが、肝心なのはその入り口前だ。
おや?なにか書かれている。
ダイイングメッセージか?
もう一度、離れたところからの引きの絵をどうぞ。
どう見ても何も書かれていない。
真っ白なキャンバスのような障子紙が張られた衝立。
中庭側から見ると何も見えないが、トイレの入り口側から見ると、ご覧の通りである。
「■■の
●●を
忘れてなろか
人の情の
厚いとこ 」
シークレットなところに文章が記載されており、さらには私の配慮のモザイクにより、謎はさらにシークレット度合いを深めているところだろうが、内容的には決して難しいことは書かれていない。
地名が書かれている箇所は伏せさせて頂いた。
簡単に全文を要約すると、「ココハイイトコ」ということだ。
決して、後ろからバールのようなもので殴られた被害者が、死に際に犯人のヒントを書き残したわけでない。
ここは観光地でもあるので、「二度とこの地に足を踏み入れちゃなんね・・・。子供の産めない体さ、なっても知らねえぞ・・・・」的なアピールはご法度だ。
町をあげて、「よ~こそお越し下さいました、いいところでしょ?次はお友達もお誘いの上、こぞってお越し下さい。三つ指揃えてお待ちしております。お土産のお買い忘れはございませんか?」という姿勢でありたい。
決して、たいした観光場所がないとか、名産たるものがないから、「いい人がたくさんいる」、「優しさに満ち溢れている」という切り札を最初から出しまくっているわけではない。
十分立派な観光地だ。
まだ「空気がおいしい!」というリーサルウェポンこと、最終兵器を出すほどではない。
また、割と「山」、「川」、「アニマル」に、「事足りている」、「困ったことがない」、「目を開ければ、いつも目の端に見える」といった場所にある観光地は、飲食の売りにおいしい水で作った「そば」がフューチャーされがちだが、ここもバッチリそうだ。
なんなら、ここはそば屋だ。
地元の高校生は、観光客を目当てにした「喫茶店」or「そば屋」でバイトする率高し。
そんなそば屋のトイレでは、設定的にはトイレで用を済まし気を許している観光客に、思わぬところで改めてご挨拶。
いいところなんで、お友達、ご家族、知人程度の人をお誘いの上、また来てねと。財布も忘れずに。
とにもかくにも、「普段の暮らしで忘れてしまった何かを取り戻せる場所なの、ここは!」と。
また、「ここはいいとこ」マインドは全てが観光客に向けられたものではなく、ここに住む人の中でもワン・ツー!ワン・ツー!と反芻されているはずである。
これを突き詰めて行くと、「地方に住むということ論」につながるのだが、同じく地方出身者の私としては、「どんだけ出て行きたかったか・・・とにかく、何もない」という過去の想いを述べると長くなるので割愛。
多分アングルとしては、中庭をバックにこの衝立の文章を重ねて見ると綺麗なのだろうが、そうなると「女厠」の方にもう一歩踏み込まざる得ない。
それから待ち受ける運命は、冷たい部屋で冷たい飯を食うということになりかねないので、ここで控えさせてもらうことにする。
画角を取るか、人生を取るか?そりゃもちろん後者だ。
ちなみに、中はお年寄りにも優しい洋式トイレです。
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「厠イヤミ百景の一景」
・本当にあった怖い尻 (更新予定)
・女子マネージャー列伝 (更新予定)
・歩こうの会 おざな (更新予定)