一輪挿しパイプ椅子
今日の貼り紙は正確に言うとトイレ内ではありません。
それは静かに静かに鎮座していました。
「トイレは
１Ｆ
にあります。 」
見てお分かりの通り、パイプ椅子の背にトイレ誘導の貼り紙がペタリ。
日常生活の中ではなかなかお目にかかれないシュールな光景が目の前に。
状況を説明すると、ここは都内のとある大学。
この日はある資格試験のために校舎が解放されており、試験会場となった校舎の一階から階段を降りると真正面に、受験生を誰よりも最初にお出迎えするべく、このパイプ椅子が地下一階の廊下に鎮座していた。
一階から階段を降りると、「トイレは今来た道を戻るべし！！」と言わんばかりにパイプ椅子が全身を使ってアピールなのだ。
普段なら何でもないパイプ椅子でも、このようにトイレ誘導という大事な仕事を任せられた日には何かしら作品性を感じる。パイプ椅子自身もまさかこんな日が来るとは思ってもいなかっただろう。本人的にはこの使われ方に屈辱を感じているかもしれんが。
他の校舎はともかく、この校舎では試験会場は地下一階のみとなっており、何百人という受験生が階段を使って地下へと降りてきていた。そんな何百人という受験生をたった一脚のパイプ椅子が受けとめていたのだ。
試験のことで頭の中の9割強が占拠されている受験生たち。それでも生理的衝動を抑えることは難しい。「今忙しいから！」なんてこちらの状況は下半身はお構いなしに、その衝動的欲求をこちらの脳にぶつけてくる。テスト勉強に集中したいのに、甲高い声で「ガスが漏れていませんか？ガスが漏れていませんか？」としつこくリピートするが如し、こちらの集中を下半身に仕向けようとするのだ。
受験会場として初めてこの大学に足を踏み入れた人たちが大多数だろう。ただでさえ試験直前で大多数の方々が緊張しており、尿意が自然と沸き起こるならもってこいときた状況下のそんなときに、一刻の時間も無駄にせず迷わないようにパイプ椅子が廊下の真ん中でトイレの場所を教えてくれる。
そしてこのパイプ椅子に貼られているトイレ誘導の貼り紙は背中のみならず、
チラっと見えるでしょ？
もちろんどの方向から見ても、トイレがどこにあるか分かるようになっている。
最近街中であまり見掛けなくなったが、ある意味サンドイッチマン的お姿だ。
そりゃ階段から降りて来た受験生ばかりではなく、既に地下に降りてうろうろしている受験生も誘導しなくてはならない。
裏から見ても前から見てもトイレの場所が分かるようになっているのだ。
ここの様子をもうちょっと引いて写せば、
このように「どこの迷子だ？」と誰がみてもおかしな位置にパイプ椅子がちょこんと鎮座。
椅子の存在が景色に合わないほど逆に人の目につき、受験生にトイレの場所を教える役割を果たすのであろう。
グッジョブ！パイプ椅子！
ちなみにパイプ椅子には「トイレは １Ｆ にあります。」と貼られていたが、、、、、、まあ一階にあることはあるのだが、実はこの地下一階にもトイレはある。
地下のトイレに足を運んでみれば「受験生使用禁止」と小さな貼り紙が貼られており、つまりはどこにトイレがあるかではなくて、どこのトイレに受験生を誘導したいかが肝心だったようだ。
受験生に地下のトイレは使わせたくないのだ。
パイプ椅子もめんどくさい役割を請け負ったものだ。
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ついでなので他の校舎も周ってみると、こんな貼り紙が、
「男 手洗
子
← 」
背景の校舎のくたびれ具合にカメレオンのように馴じんだ、一見するとなんでもない「トイレはこっち」系の貼り紙なのだが、もっと近づいて見てみると、、、
矢印が無茶苦茶になっている。
斜め上にはトイレはない。
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「厠イヤミ百景の一景」
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都内、某大学内にて
