THE LOCK~トイレをご利用の際には鍵を~
とあるコンビニのトイレのドアに・・・、
「お手洗いを御利用のお客様へ
お手洗いを御利用のお客様は店員まで
お申しつけ下さい。ドアのロックを解除致します。
The customer of use of a toilet needs
to tell ever salesclerk.
A salesclerk cancels a doorlock.」
鍵ではなくロックと呼ばれるものがかかっているようで、英語で翻訳文を付けるほど無断で使用させたくないご様子。
ちょっといいマンションの入り口か、はたまた刑務所か、コンビニでトイレを借りる際に一言訊くのが大人のマナーとは言え、そこまでトイレを守らなくてもいいだろう。
そこまで言われると中が気になるので、店員にトイレを借りたいということを告げる(尿意は一切ない)。
すると、どこかの梅酒の如く、さらりと「あっ、どうぞ」の声。
レジにいる店員にではなく、すぐそこで棚整理していた店員に訊いたのだ。
その氏が、ポケットからリモコンっぽい機械を取り出しボタンを押すなり、カウンターに向かって「トイレ解除一丁!!」と叫ぶわけでもなく、「あっどうぞ」の一声が返ってきた。
それでもうドアロックは解除されたのか?
そんなくしゃみの際にちょっと変な声が出ちゃったみたいな一声でドアロックって解除されるものなのか?
奥歯に何かしら小さな解除ボタンが埋まっていたとか?
目に見えない早さで別の店員が動いたとか?
しかしどうぞと言うからにはもう何かしらが解除されたに違いない。
トイレのドアの前に戻る。
「トイレをご利用のお客様へ
スタッフに声をかけていただきましたら、
ドアロックを解除させていただきます。 」
スマイルマークを携えて先ほどと同じ旨のことが書かれている。既に声はかけてあるので、通常考えれる鍵を開けるなりのアクションは何も見せてもらってないがドアロックは解除されたはずなんだろう。せめて「あっどうぞ」の一声の後に、「ガッチャン!!」と大きい音でもすれば安心したんだが。
スマイルマークもこんな顔して嘘は言わないはず。
この貼り紙の下を見れば、
「押 PUSH/押 PUSH/押 PUSH/押 PUSH/押 PUSH/押 PUSH」
どれだけ押せばいいんだ?
花の博覧会こと花博のマークのように「押」マークのシールが円(?)を描いて貼られている。指五本で全てを抑えようにも一本分不足してしまう「押」の過剰通知。
さすがにこれを見てドアを引いてみようとする輩はいないだろう。
もしかしてどこかの世紀末伝の漫画のように、「あたたたたたたたたたたたたたたたた!!はたあ!!」 と、六枚の「押」マーク全てを秒間単位で出来るだけ多く押さねばならぬとか?
何が楽しくてコンビニのトイレにて、己の筋力の限界に挑戦せねばならぬのか。トイレの個室の中なりで踏ん張るのはいいとして、トイレのドアの前で踏ん張ってしまうと、ここでは本来噴出する予定ではなかったものが下半身から「ひでぶ!!」と、噴出してしまう可能性があるので出来るだけ控えてもらいたい。
まあ過剰な「押」マークよりも本当にロックが解除されているのか、ちょっと不審気味にドアを押してみれば、こちらの思っていた抵抗など思い過ごしも思い過ごし、うちわを仰ぐが如くトイレのドアは開いた。
ここで私の中で一つの疑惑が湧く。店員のノンリアクションといい、押しまくれと誘っているのといい、もしかして初めっからドアロックなど施錠されていなかったのではないのかと。
開けたばかりのドアを振り返れば、
なんかえらいことになってます。
「行きはよいよい、帰りは怖い」とはこのことか?入るまでは簡単だったとして、出る際には並大抵じゃない困難を伴うドアロックが待ち受けているのか?正に「トイレからの脱出」という言葉がふさわしいくらいの困難が!?
何かしら排出してリラックスしたところに、「さてここで問題です」と突っ込まれた人間は儚いほど脆い。
よく見てみよう。
「出る際には
↓(矢印の)ボタンを
押してください!!」
雲を掴む話ならぬ、雲のようなもやもやとしたフキダシの中で、「ここ試験に出すよ!!」と言わんばかりに赤い波線を引かれて矢印のボタンを押せと指令が。行きも押して帰りも押すなんて、まるでスーパーの売り場とバックヤードをつなぐ搬入口のドアみたいだな。
「ドアの開け方
トイレから店内に戻られる時は
上の「解錠」ボタンを1~2秒
押してください。
もしドアが
開かない場合は
もう一度ボタンを
押して下さい。 」
それでも開かない場合は?
皆さんはいつ、遥か昔、いつ頃「ドアの開け方」というものを、人間としての教育と言うのもはばかれるほどに地味なアクションを習っただろう。いや、もしかしたら習っていないかもしれない。「おっ、このドアノブってヤツ便利かもしれない」と認識した記憶などない。下手すれば猫すらドアノブを両手で器用に回して開けてしまう昨今、それは日常生活の上で自然と習得してしまうようなことだ。
しかし、ここでは改めてドアの開け方のレクチャー貼り紙が登場する。
ここでこの文の言う事が分からなければ出られないという話なのだ。
ドアの一部がガラス張りとなっており垣間見えるコンビニの店内こと、さっきまで何の疑問もなく生活していたあの世界には二度と戻れないのだ。すぐそこに懐かしの世界があるのに、ちょっとトイレを利用したいという己の衝動を抑え切れなかったがために、隔離された世界こと、今日からトイレ界の住人となってしまう。
ドア一枚向こうは食料・飲物・雑誌など、人間のあらゆる欲を埋めてくれそうなものでいっぱいだが、こちらには排出欲を満たしてくれる便器オンリー。水はあるけど味はないし、衛生的に問題もある。他に娯楽と言えば、ブラシかサンポールくらいしかない。なりたくない、決してトイレ界の永住権は遠慮させて頂きたい。
つまりこの貼り紙は重要文章となっている。
バイト店員の女の子が描いたと思われるふざけたイラストにかどわかされてはならぬのだ。
しかしここで矛盾点を見付ける。
上の貼り紙では矢印のボタンを押せと言い、下の貼り紙では「解除ボタン」を押せと言う。
半分ほど剥がれてはいるが、その矢印マークは女の子のイラストの上に重なっていたようで、すぐ横の白いボタン(トイレの排水ボタンの如し)を指している。また下の貼り紙が言う解除ボタンとは別に「解除ボタン」と書かれたボタンがロックの真ん中に設置されている。
ちょっと軽いめまいのために写真がぶれてしまったが、左手に見える白いボタンが矢印が指していたと思われるもので、真ん中にあるボタンこそ「解除ボタン」と書かれている状況だ。
ボタン二つあるじゃん。
ちなみに解除ボタンの下に書かれている文章はトイレ自体には全く関係ない。関係ないが、余計な知識の提供のためにここに書かせてもらえば、
「電池交換のアラームランプが
点滅又はブザーが鳴りました
ら新品の電池(単3アルカリ)
に取り替えて下さい。 」
ドアロックが単3電池で動いています・・・。安いセコムだなあ。
解除ボタンの横にある黒いポッチがアラームランプとなっている。
トイレに入ってブザーなど鳴られたくないところだ。
これ以上脅されるのは嫌だと、ここで私先ほどの疑惑を捨て切れずに、このドアロックごと鷲掴みにしてドアをおもむろに押してみた・・・・・・。
はい~、何の抵抗もなく、入ったときと同様にのれんを潜るかの如く開きました。
はい~、ドアロックなんて機能してません。
「なんだ、ハッタリくん」でした。
ドアロックに関してはもう電池交換以前の問題だったようだったので、安心して個室の中の貼り紙をチェックすべくトイレ内の奥に戻ることにした。
そこで私は「やっぱりドアロックなんて機能してなかったのね」ということを再々認識することとなる。
「流れにくい場合は何度もレバーを引かずに
スタッフまでお申し付けください。
よろしくお願いいたします。
店主 」
貯水タンクの水を「足りねえ、足りねえ」と声に出しながら何度もフルスロットルした方が過去にいたのだろうか?
足らない状況を作り出した夢の箱庭ニストはご本人なんだが、そういう方に限って自分の犯した過ちに気づきにくいものだ。
まあ水は溜めても、DB(大便)は溜めるなよという話だ。
これじゃない、これじゃない。
ドアロックの話を匂わせている貼り紙が個室内にもう一枚ほどありました。
「お客様各位
いつも当店のトイレをきれいにご利用いただき誠にありがとうござい
ます。
トイレご利用の際は必ずドアの鍵を閉めてからご利用くださいませ。
なお、当店トイレは禁煙となっております。
ご協力よろしくお願いいたします。
店主」
ここね、
「トイレご利用の際は必ずドアの鍵を閉めてからご利用くださいませ。」。
トイレ自体にドアロックがかかっているはずだから、個室は鍵かけなくても、トイレエリア全てがプライベートビーチならぬプライベートトイレかと思いきや、いきなりの訪問者。開けた方も、見られた方も気まずさMAXとなる、思えばこんな形で出会いたくなかった状況No.1のシチュエーションの出来上がり。
マンションの入り口がオートロックだからと安心して部屋の鍵をかけずにいたら、気が付いたら新聞勧誘員が玄関に立っていたいたようなもんだ。
「えっ、どこから入ったんですか?」
「はあ、マンションの入り口にも、こちらのドアにも鍵がかかってなかったもので・・・。物騒ですよ、奥さん。ところで新聞・・・」
トイレを使用する際には鍵をかけてだなんて、極普通に当たり前のことをわざわざ貼り紙の一文に盛り込むなんて、もう店主から遠巻きに「ドアロックとかそんなの嘘です!」と言っているようなものだ。
思えばここはそこそこの繁華街にあるコンビニ。
トイレの利用者の数は結構いるものと思われる。その中にはモラルを軽視したひどい利用者もたまにはいただろう。
そのために付けたと思われるドアロック、入る人を規制するまではよかったけど、出る際にもロックがかかっているだなんて、ここが思わぬ仇となったのかもしれない。先ほども書いたが繁華街のために酔っ払らわれた方も多々いたことだろう。入るまでは良かったけど、今度は出られないという、まるでゴキブリホイホイのような事柄が何度か起きたのかもしれない。
普通、外からの侵入にロックが機能するのならば分かるが、中からの退出にもロックが機能する必要性はどこにもないだろう。単3電池で稼働するドアロックってそんなものなのか?
単3電池のロックは無差別なのか?
そんなことが実際に何度も起きたかどうか真意は定かではないが、あのドア内側の過剰な貼り紙「ドアの開け方」などがあるように、一種の脱出ゲームと化してしまった現状があったためにドアロックを止めてしまったのかもしれない。
外側のドアに貼られている「スタッフに一声」の貼り紙を残しておくだけでも、勝手に使い放題という意識への抑止力のきっかけにはなるはずだし、そのためにドアロックはなけれど前の名残と残してあるのかもしれない。
どちらにしても利用者に、他人のトイレを借りているという意識が低い人々がいたことから、ドアロックなんて取り付ける羽目になったはずだ。
でももうちょっと高機能のドアロックを使っていれば話は変わっていたかもしれない。
単1電池6本使用とかね。
もしくは過去に「押」のマークだけドアを猛連打してしまった伝説のツワモノがいて、「あたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」とドアロックを破壊してしまったのかもしれない。胸に七つの水ぼうその痕を持つ男が。
いや、繁華街なんで色んな方がいるもんで。
- Create魂 Flashクリエイターによるオリジナルアニメ創作論
「厠イヤミ百景の一景」