2階のトイレさん
「トイレは・・・
2階です」
とあるレンタルビデオ店。
店の奥に扉を見掛けて、そこがこの店のトイレかと近づいて見ればこの始末。
残念でしたと言わんばかりではないか。
怪しく波打つ書体に、何を含んでいるのか「・・・」で溜めておいて、「2階です」との突き放し。
ガッカリさせるにもほどがある。まるで貢がせるだけ貢がせといて姿をくらましてしまうどこぞのメスと同じではないか。
しかしこの場合は、そのメスの行き先を「2階です」と教えてくれているだけまだマシか。じゃあここの扉の向こうはなんだ?という疑問は残ったまま二階へと上がる。
一階と同じく店の奥にトイレは位置し、やはりさっきのは建物の構造上、トイレだったのではないかという疑問がますます色濃くなる。きっと従業員専用にでもなっているのだろう。
トイレ内に入り、個室の壁に目をやれば、
ビデオレンタル屋だからというのである程度の覚悟は出来ていたが、さすがにこれは書き写す気が起きない。
五本以上のレンタルで新作も一週間借りることが可能というものと、ポイントカードがありまっせお客さんという内容のものだ。
これはこれでいいとして、取り上げたいのは狭い個室内、これが貼られていた壁に対面する壁に貼られていたものだ。
「お客様のご協力により
清潔に保たれております。
これからも清潔に御利用いただくよう
ご協力よろしくお願いします。 」
「これからも」と言われても、初めて来たトイレであり、今まで清潔を保つために協力した覚えは一切ない。
人はトイレを選べるが、トイレは人を選べない。待ち受ける側としてはマンシンガンを乱射するが如し、老若男女に言葉を撃ちつけるしかないのだ。
ところで、
あんた、誰?
どう見てもビデオ屋の店員ではない。
どう見ても便器そのもの。
ミスターかミスかミセスかは定かではないが、蓋の内側とされるところににっこりとスマイルを浮かばせる便器さん。
ピカピカと光輝く陶器使用のボディに、つぶらな瞳とおちょぼ口、少し頬に赤みを差しているのは、座る人座る人のお尻が否が応でも目に入る運命と書いて「さだめ」にあるためだろうか?
そして使用後に蓋をされれば、匂い立ち込める空間内で一人(?)苦悶しなければならない。まだ鼻がなかったのは唯一残された小さな幸せか?しかし中には用を足した後に流さず放置していく何を考えているのか、非常にお土産テロ好きの輩もいるだろう。お土産なのに持参して来るわけでもなく、後に入ってしまった人が事故のように被害を被るとんでもない地雷的お土産を。正に糞テロ。・・・持参して来られて投げつけられても非常に困る。
「うわ、月面のような尻だな!?」と、時には座らせたくない人も入って来るだろう。
しかし悲しいかな、便器さんにはそんなときに「ふんぬ!!」と人の尻を受け止める腕という機能がない。
太い両腕でもあれば、尻の色・艶・形状を一瞬にて判断して、己の意思にて座る直前にその尻を受け止めるか、便器から払いのけることも可能だろう。もしくは尻の肉と肉との間にある何かしらの穴に「ズボリ!一発!!お前の尻など座るに値せず!!」と熱い鉄槌を叩き込むことも可能だ。
<便器に顔がある時点で尻を出すべきではないのでは?>
腕はないにしろ口はある。もしそのおちょぼ口で話すことが出来たら、
「もう一ふんばりです、ファイト!」
「もうちょっと拭いた方が懸命かと・・・」
「かなり湯水の如し下してますが、昨晩何食べました?ほら、ノロウイルスとか流行っているじゃないですか?」
「硫黄臭がキツイのは腸内で発酵が起きてるんですよ。まるでお尻界の活火山やあ~」
「すいませんね、便器が冷たくて」
「今笛吹きました?"プピ"って?音階で言ったら"ラソ"って音がしましたよ」
「すごい位置に肛門がありますね」
「うわ!私の顔にかけないでください」
と、背後から言いたいこともたくさんあるだろう。
実際物言えるわけでもなく、尻を受け止めるべく筋肉がパンパンに張った腕があるわけでなく、便器さんは今日も誰彼選ぶことなく己の体内に、「好きなだけたんまり排出したらええよ」と寛大な気持ちで色とりどりの排出物を受け止めているのだろう。
物言わぬなら、こちらが悟って使用に気を使うのみだ。
今日もにっこりと微笑むことが出来るようにと。
しかしね、ここの貼り紙にあるようなトイレさん自体も実際いないのかもしれない。
だって、
ここにあるトイレは和式なんだもの。貼り紙のトイレさんと違うじゃないか。
和式便器さんだと、よけいに見たくないものまで見えてしまいそうだ。しかし彼(彼女)にそれを避ける術はなし。
ところで二階から一階に戻る際に、ここの店舗だけのものと思われる素晴らしいセンスの貼り紙が連なっていたのでここに。
そのセンスをトイレにぶつけてもらいたい。
- スペース・カウボーイ
- ビッグ・シティ・ナイツ