洗ったりしてはいけません
「べんじょ」
切り絵ではない。
平仮名もとい、「べんじょ」という日本語の意味が分からない人でもここがどういった場所か分かるようになっている。そう工夫されているに違いないのだ。
商店街の通りに面した小さな公園の公衆トイレの入り口にてこんなトイレのマークを見掛ける。
もちもちの絶妙なラインの坊主が、「尿ましっぐら!」と云わんばかりに集中力全快で用を足している図は、まるでもう便器と一つの線で一体化してしまったかのような錯覚をこちらに起こす。
用を足すとは便器とコンタクトを取ることだったんだねと。
別に真っ裸で用を足せと促しているわけではないのであしからず。
そんなデザインの力が入っているトイレの内部には、
「公衆便所で洗濯や、からだを
洗ったりしてはいけません。
近隣に迷惑になるため公衆便所内で
さわがないようにしてください。
●●市 」
いるんだな。洗濯や体を洗う輩がいるんだな。
洗濯、洗髪を注意する貼り紙は今まで何回か見掛けたが、体を洗っちゃあおしまいよ。「トランスフォーム!」の掛け声と共に、ラジカセサイズに体を小さく折り畳むことが出来るとか、特殊な身体機能をお持ちの方はともかく、普通どうやってトイレ内のあの狭い洗面台で体を洗うのか?
しかしまあ「洗う!」「洗ってみせる!」「ここで洗わなければどこで洗う!?」と思っちゃえば、洗える人は洗ってしまうんだろう。さすがにどこから出てきたか分からぬ自信に満ち溢れた顔で「飛べる!」と決め付けたところで、背中にジェット噴射機能でもない限り、裸(ら)で飛ぶのは不可能だが、「洗う!」くらいならドブの水溜りだろうが、水を張った洗面器に向けて発した言葉だろうが、それくらいなら実行可能っぽい。
起きて一畳、寝て二畳。半畳にも満たない洗面台で体を洗うことも出来るかもしれない。
多分、そこら一体びしょびしょになってしまうことは避けられそうもないけど。
普通に洗濯をされていてもそうだが、誰かが体自体を洗濯しているところに、たまたま遭遇してしまった人はさぞや驚くことだろうな。公衆トイレとあるから入ってみたら、半裸もしくは全裸の人間がウェルカムしていたら、「しまった!公衆トイレかと思ったら、公衆シャワー室だった!」という話である。
もちろん普通にトイレを使用として入って来た方には非は一切ない。半裸、もしくは全裸の氏が「見せもんじゃねえぞ!!」と安易に分かる逆ギレ全快で怒鳴ってきたら、ためらいなく食べかけのタイ焼きでも投げつけてやれ。
買ったばかりのおNEWの下着を投げつけた場合には、男物女物問わずに履かれてしまう恐れがあるので気をつけるべし。
にしても「洗ったりしてはいけません。」という表現は少し新しいものを感じる。
こういう場合に多くは「洗わないで下さい。」と鉄壁注意なのだが、今回の場合だと学校で道徳の時間でもしているように諭している様子が伺える。
人間として、社会の一般常識として、「泥を集めて適度に固めて"おはぎ"として売ったりしてはいけません」と言うかの如く、こんな体を洗濯しちゃうような駄目ん子ちゃんたちには低いラインからの再教育が必要と言っているかのようだ。本当に掲示物の啓示っぽい。
洗う方もそれなりの十字架を背負っているはずだが、さすがに他の一般利用者の迷惑行為を起こすと市も黙ってはいないだろう。
そんな迷惑は他にもあるのか、「近隣に迷惑になるため公衆便所内でさわがないようにしてください。」ともある。
パーティーか?公衆トイレで放尿パーティーでもひらかれているのか?
「うわ、お前の尿の放出感、そしてその顔の高揚感ってトビキリじゃん!!訳もなく超フィーバーでフューチャー!!」とか言い合っているのか?
まあ洗いっこをしているのかどうかは知るよしもないが、先ほどの体の洗濯を複数人でやれば、それなりに騒がしくもなるだろう。さすがに真昼間から体を洗うほどの強者はなかなかいないと思う。ということは自然と普通の人が利用しない時間の真夜中などに集中してしまうことから、余計に洗ったりする音が周り近所に響いているものと思う。う~ん、もうどうしようもないな。
せめて洗いっこだけで収まっていること願う。
残された道はよくある利用時間が定められた公衆トイレのように、夜間は使用出来ないようにしておくことだろう。
でも良く見れば、ここの公衆トイレ自体にドアがなかった。
にしてもトイレの洗面所って水しか出ないよね。
しかも今は真冬。
そんな中で風が吹きすさむ公衆トイレで体を洗うのはどんなに寒いだろうか。
想像しただけで、ここのトイレのマークの行為がしたくなる。