銭洗いアライグマ
「チップ制で「清潔」が保たれています」
なんだか「WAO！これ食べれへんわ！」といったお顔をされたアライグマ。
その持ててそうで持ててない、いわゆる一つのドラえもんハンズ的な手には、円のマークもとい、「銭や、銭や、銭の花を咲かせるんやで！」の￥のマークが。
思わず、これで絶滅危惧種のアニマルたちを救って下さいとかなんとかのマークかと思いきや、ここはトイレ。
そして「チップ制」という単語の通り、ここは有料トイレです。
「toilet
このトイレはチップ制です 」
まるでケーキ屋さんの軒先のような傘に書かれている通り、感謝の気持ちを小銭で表現すべきトイレである。
ここは某商業施設のビルのトイレ。
入っている店舗のほとんどがアルコールを提供する類の飲食店であり、また一店舗、一店舗が下手すれば「勉強部屋ですか？」と思ってしまうほど狭い店も少なくない。
つまりは店舗の中にトイレがない店がほとんどだ。
そうすると突然の尿意に駆られた場合に、お腹いっぱいの方も、軽くほろ酔いの方もお世話になるのがビル自体のトイレ。
そこでお出迎えするのは、銭洗い弁天ならぬ、先ほどの銭洗いアライグマの姿が入口に・・・。
「今日はあんまり人の言うことを聞かないで過ごそう」と、朝方出かけに決めた人も思わず足を止めてしまうそのインパクト。
「何？このおとぼけフェイス？」と。
別にトイレ内に入ると、中でアライグマが「旦那！プリプリですね！」と、お尻を洗ってくれるわけではない。
もしくはここいら一体がアライグマ大量発生地域で、個室で用を足していると突如アライグマが戸の隙間、もしくは天井からと飛び込んで来たりする危険性に満ちているわけでもない。だがしかし、トイレの入口で注目を集めるには十分。何事も出だしが勝負だ。みそ汁はダシが勝負だ。
思わずアライグマの存在ばかりに目が行きそうだが、肝心要なのはトイレを使用する限り、チップが必要とされる点だ。
どこのトイレも、外のトイレというのは無料と書いてタダで使えて当たり前と思われているのが世の常。
しかし無料で使わせてもらっているのに、汚れていると愚痴の一つや二つ、えーいおまけの三つ目までこぼしてしまう。なんなら尿までこぼしてしまう。
ではと、お綺麗なおトイレであられるためにはどうするかと問うならば、誰かが掃除をしてくれなければならない。
つまりは人件費も道具もいる。
お店ならば、そこんとはバイト代なり給料なりに含まれてて店員さんが、「はいはい、しょうがないわね、ったく」と掃除してくれようものの、はて、こういったテナントビル自体のトイレは？
そこはもう、「アルコールはたんまり飲んでもいいけど、それを下から出さないでね。上から出すのは尚許さん！」とも言えないので、ビルの管理組合の方から掃除を外注か、管理してる側が自らの片腕にサンポールを持つしかあるまい。
綺麗なトイレでいるためにも、貴方好みの女でいるためにも、寿司屋のかんぴょう巻きのかんぴょうの仕込みも、何もかもそうである以前に手間隙がかかっている。
そこら辺は何かでカバーしなければならない。
そこで、一部裕福層にとってはお尻を拭く紙と言われているが、我々庶民にとってはお金と呼ばれているものの出番となる。
「チップはこのボックスに
お入れ下さい。
ご協力ありがとうございました。」
同じく入口には、自己提案＆自己解決の貼り紙が貼られており、何が何でも「ありがとうございました。」で締めるつもりまんまんである。
「起承転結」の「起」と「結」でワンセットだ。
例：
「本日はいい天気です。ありがとうございました。」
「お金」と言っても、所詮そこは「チップ」の範囲。
日本の生活風習では、チップの概念が希薄だとしても何となく「ああ、必要なのは小銭ね」と分かる。
そして日本人は世界の中でも秀でて、ボックス型の容器に小銭を入れたがる民族だ。
街中に大量に溢れる自動販売機然り、神社の賽銭箱然り、ちょっと形は違うが水があるところ（噴水等）にもお金を投げ込みたくなる衝動に駆られる。
ジュースやタバコなど何かしらのアクションの末、代価に値するものを求めなくても、小銭が入りそうなところには小銭を入れたがるものだ。少しメルヘンチックな人なら、タンポポの綿毛をそっと入れることだろう。・・・メルヘンと言うか、メンヘル気味とも取れるけども。
そんなボックスが、上の貼り紙の指す先に。
「チップ制にご協力ください」
「この中にお入れ下さい 」
ご家庭にはないだろうし、外でもなかなか見かけないチップの受け入れ先。
別の言い方をすれば、貯金箱。
誰か一人のための貯金箱ではなく、ゆくゆくはみんなのための貯金箱なのでお間違いのないように。
相変わらず、先ほどの銭洗いアライグマも「ここよ！ここよ！ここにダンクよ！」と自己主張。
言っておくが、いくらチップ制と言ったところで、そこでちゃんとお金を払っているか否かを監視している人物は一人もいない。そして何かしら定められたチップの金額も提示されていない。
全ては利用者の心の在り様次第なのだ。
まだ、
「SB（小便）三分以内 １００円」
「DB（大便）時間制限なし ２００円」
「同時発射 ３００円」
「SB（小便）が五分以上の場合 200円もしくは最寄の病院に行かれた方が・・・」
など、料金を明確に提示してくれたら、「ああ、はいはい」とこちらもルールに従って払いやすい、もしくは鼻からここのトイレは使わないという人もいるだろう。人が見てないなら払わない人だっている。
しかし実際は「お気持ち」というあやふやな量りと定規。
極端な話、１円でも全財産でもいい。なんなら年頃に成長した我が娘とかでもいいが、それだとボックスに入らないので、とりあえず私にパスしなさい。
例え監視している人がいなくても、そこは人間の７０％は水、そして残りの２９％は優しさで出来ているために大抵の皆さんはお金を支払っているようだ。投入口のペンキが今までの小銭との摩擦ですっかり剥げている。
ちなみに残り１％は、よこしまな気持ちだ。もしくはバターとかだろう。
今日の優しさがトイレへの美化へとつながり、結局それは次回に自分が使う際に帰ってくる。
私みたいに、駅までの道が分からずに迷子になっていたお婆ちゃんに、善意から道を教えた後に、まだ道に迷っていたようなので駅まで一緒に歩いてあげていたら、ババアの口からは出るのは、いつの間にか某宗教への勧誘話一色になっていたときとは大違いだ。
いや、きっとお婆ちゃんにとってはそれも善意の気持ちからだったのだろう。でも私はNO宗教なんで勘弁して下さい。
話を戻すが、普段当たり前と思っている多くのことも実はどこかの誰かのおかげだったりする。
それを忘れないためにも、たまにはこういったトイレをあえて利用するのもありだろう。
「使わなきゃ、汚れねえ！」とかは言っちゃあヤダよ。
さて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、ここまで紆余曲折しながら説いたところでなんだが、ここは商業施設のビル。地下一階から二階までを飲食店が占める。
そして今まで散々書いたように、店舗の中にトイレなどなく、あっても各階の廊下に一つ。
もうちょっと言うと、有料トイレも一つ・・・・・・・。
地下一階だけ・・・・・・・。
一階も二階にも全く同じ大きさのトイレがあり、無料で普通に使える。
つまりは、「なんで！地下一階だけ有料やねん！！」ということだ。
地上一階と二階のトイレの存在を知らない者だけが、己の度量の大きさをチップで測られるのだ。
いろいろ真面目なことを説いたけど、忘れて下さい。
取れるところから取ろうということだ。
と言うのも、地下一階は地下鉄につながっているために、その流れからやってくる利用者から取ってしまえということだ。ああ、無常。
「銭や、銭！銭の花を咲かせたらんかい！」と銭洗いアライグマの声が聞こえる。
というわけで、次回は一階二階の無料トイレの貼り紙をどうぞ。
つまり続きます。
ちなみにこの地下一階のトイレでは、撮影料と書いて私の気持ちとして１０円だけ入れておいた。
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